雨街

 

ざあざあと音がする。

季節外れの紫陽花に埋もれた窓枠に手をついて外を見ると、細かい水滴が顔につくのを感じた。

大門から続く下の道を蛇の目の傘が行ったり来たりしている。

曇天を目で辿れば空気は白く霞んでいて、遠くの赤い電波塔をもやの中に沈めていた。

秋の終わりの雨だ。これからどんどん寒くなっていくのだろう。

手にしっかりと、けれど潰さないように縋るように滑らかな文字が綴られた1枚の和紙を胸元で握った。

自分自身のようなものだから雨は嫌いじゃない、が手紙の差し出し人はきっと好まない。

 

 

体の弱い人だから風邪をひいたりしたら大変だし、でも、でも、会いたい、なあ。

 

もう頭の中で響く音が煩くて仕方なかった。雨音よりも大きな、誰とも知れない嘲笑を。あの人に会って声を聞いて早く掻き消してしまいたい。

 

いくら努力し芸を極めど、皆が見に来ているのは滑稽な姿で身を売るかつての"ご子息様"で。与えられるものに賛辞はなく、下卑な笑い声ばかり。それでも笑わねば稼げない。ひたすらプライドを踏みにじられる生活。

 

そんな毎日のたった一つの救いは恋、だった。

 

誰彼構わず愛を囁いてなるものか、春を売っても心は売らない。それが、一縷の矜持を支える唯一。

 

「……落揺さん」

 

待ち人はまだ来ない。