秘密のお話

 

―――商会の頭を殺せ―――扉の向こうから幽かに聞き取れるのはそんな意味の異国の言葉。

ああやっぱりか。菊由は壁にもたれながら小さく息を吐いた。

明日は黒牙との戦いだ、それに乗じてウェイバーがなにかを起こすのではと思ってはいたが。

ただ一言二言、明日は怪我しないように気をつけて欲しいとかそんなことを言いに来ただけだったのに。

止めるべきやろうか……いやまず人の話をこっそり聞くなんて嫌われても仕方ないんやないか……!?うちはどうしたら――

 

「キク?」

「あ」

 

大きな黄緑の目がまんまるになってこちらを見上げていた。

何を言ったらいいか分からず六つの目を泳がせているとウェイバーはにっこりと笑った。

あ、かわいい。顔に熱が集まるのを感じてさらに菊由の態度が挙動不審になる。

 

「キクってさー華国の言葉って分かル?」

「ウェイバー…?」

「ネェ、ネェどうなのー?」

 

バレてる。これは確実にバレている。

相変わらずにこにこと人なつっこい笑みを浮かべているウェイバー。

誤魔化す?きっと無理だろう。ならば、

 

「……分かる。最近少し勉強したんや」

 

彼女に嘘は吐きたくない。

 

「そっかあ、キクって頭良いもんネ!」

 

にこにこにこ。すう、と手袋をはめたウェイバーの右手が菊由の頬を撫でる。

そのまま下に動くと、首を掴まれた。少しずつ力が込められていく。

 

「講話 殺(話す気なら殺す)」

 

冷たい声だった。感情の込められていない目が菊由を静かに見つめていた。