恋は猛毒

 

(何故か一縷さん一人で行動)

(つまりパラレル)

(突然始まるうちの子いじめたいだけの話)

 

 

 

 

 

 

 

角を曲がった先にいた人物に一縷は目を疑った。

色素の抜けた長く白い髪に縫い傷が目立つ、それでも秀麗な面立ちをした男。

彼は今頃荒神博の会場で研究の発表をしているはずだ。

そうでなくても騒ぎの渦中である研究所に自ら足を運ぶことなど。

 

 

「落揺」

 

 

動揺を殺しきれずに思わず口から声が漏れる。

それに反応してつい、と薄い硝子のような目がこちらを見た。

 

 

「あらあら奇遇ですね、一縷」

 

 

返ってきたのは道端で鉢合わせた時と変わらないいつもの笑み。

鳴り響く警報さえなければ状況を忘れて微笑み返してしまっていたかもしれないほど。

 

 

「なんであなたがここに……!?」

「なんでって、敬愛すべき兄さんの計画ですよ。

荒神の人間として家族として役に立ちたいと思うことは何もおかしくないでしょう?

 

ああそれにしても運が良い。

ちょっとした薬を届けにきただけだったのですがあなたのおかげで土産が一つ増えそうです。」

 

 

そう言ってたもとから取り出したのは小さな透明液体の入った瓶。

手馴れた動作で液体をガーゼに染み込ませていく。

おそらく何らかの薬だろう。

しびれ薬か催眠薬あるいは、毒薬。

そして、使用対象は―――自分だ。

 

ゆっくりと歩み寄ってくる落揺。

逃げ出さなければいけない、もしくは倒すか。

スラックスの間に挟んでいた小銃を向ける。

だが手が震えて標準は合わない。

 

 

「落揺、それ以上進んだら」

「撃つなら早く撃ったらどうです一縷」

 

 

銃口を向けられても歩みを緩めることはなく落揺は心底おかしそうに笑うだけだった。

ついにとん、と小銃が落揺の体に触れる距離まで近づかれる。

 

 

「まあ、撃てるわけないでしょうけど」

 

 

口元に押さえつけられるガーゼ持った手を振り払わなければと思うのに、耳元で囁く声を聞いた体は薬を使われる前からしびれたように動かない。

ああ、だってあたしは。

 

 

 

「だって私はあなたの”好きな人”ですものね」

 

 

 

 

薄れる意識の中、左薬指の黒い指輪に傷ついた自分は本当に馬鹿だ。

 

 

 

 

 

 

 

無数の画面の一つに倒れた金髪の男の姿を確認した少女は懐中電話を取り出した。

 

 

「兄さん、連絡、作戦成功」

「ありがとうございます古式。

あんなもで騙されてしまうなんて、わたしが危険な場所に行くはずがないというのに。」

 

 

恋の病にだけはかかりたくないものですねと落揺は呟いた。